図のように質量\(m\)の人工衛星が、質量\(M\)、半径\(R\)の地球から距離\(h\)の地点をまわっている。
この人工衛星にエネルギーを与えて瞬間的に加速させ、地球から無限の彼方に飛ばすためには、少なくともどれくらいのエネルギーを与えれば良いか。
運動中の人工衛星が、二度と戻ってこないようにするために与えるエネルギーはいくらか?という問題です。
人工衛星の力学的エネルギーを求めてみる
まずは、運動している最中の人工衛星の力学的エネルギーを求めます。
<運動エネルギー>
人工衛星の速度を\(v\)とすると、人工衛星に生じる加速度は地球の中心向きに\(\frac{v^2}{R+h}\)、人工衛星にはたらく力は、地球と人工衛星との間の万有引力(同じく地球の中心向き)\(\frac{GMm}{(R+h)^2}\)なので、
人工衛星の運動方程式は、
\(m\Large\frac{v^2}{R+h}\)=\(\Large\frac{GMm}{(R+h)^2}\)
となります。
この式より\(v\)=\(\sqrt\frac{GM}{R+h}\)なので、運動エネルギーは、
\(\Large\frac{1}{2}\)\(mv^2\)=\(\Large\frac{GMm}{2(R+h)}\)
です。
<位置エネルギー>
地球の中心から\(r\)だけ離れた地点の万有引力による位置エネルギーは、無限遠を基準として\(-\frac{GMm}{r}\)と表されるので、\(r\)にそのまま\(R+h\)を代入して、
\(-\Large\frac{GMm}{R+h}\)
です。
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以上より、人工衛星の力学的エネルギー(運動エネルギー+位置エネルギー)は、
\(\Large\frac{GMm}{2(R+h)}\)\(-\Large\frac{GMm}{R+h}\)・・・・・①
となります。
無限遠における人工衛星の力学的エネルギーは?
①式を求めたように、一般的に任意の点\(r\)を速度\(v\)で運動している物体の力学的エネルギーは、次のように表されます。
\(\Large\frac{1}{2}\)\(m{v}^2\)\(-\Large\frac{GMm}{r}\)・・・・・②
仮に人工衛星が無限遠に行ったと仮定し、その時の速度を\(v'\)とします。
無限遠では\(r\)=\(∞\)なので、②式において\(-\frac{GMm}{r}\)はゼロとなります。
よって、無限遠における人工衛星の力学的エネルギーは、
\(\Large\frac{1}{2}\)\(m{v'}^2\)・・・・・③
です。
力学的エネルギー保存則を適用
万有引力は保存力なので、力学的エネルギー保存則が成り立ちます。
つまり、人工衛星にエネルギー\(E\)を加えた状態の力学的エネルギーと、無限遠に到達した状態の力学的エネルギーは、等しいということです。
よって、
\(\Large\frac{GMm}{2(R+h)}\)\(-\Large\frac{GMm}{R+h}\)+\(E\)=\(\Large\frac{1}{2}\)\(m{v'}^2\)・・・④
ここで、人工衛星が無限遠の地点でまだ速度をもっていれば(\(v'\)≧0であれば)、人工衛星は無限遠に到達しているといえます。
よって、\(v'\)≧0のとき「(④式の右辺)≧0」なので、同時に④式の左辺も0以上ということになり、
\(\Large\frac{GMm}{2(R+h)}\)\(-\Large\frac{GMm}{R+h}\)+\(E\)≧0
∴ \(E\)≧\(\Large\frac{GMm}{2(R+h)}\)
この条件であれば、人工衛星は無限遠に到達するので、求める値は最小値である\(\Large\frac{GMm}{2(R+h)}\)です。