下図のように、摩擦の無い水平面上を運動している物体AとBが、一直線上で互いに衝突する状況を考えます。
物体A・・・質量\(m\)、速度\(v_A\)
物体B・・・質量\(M\)、速度\(v_B\)
(\(v_A\)>\(v_B\))
衝突後、物体AとBは一体となって進みました。
この場合、衝突後の速度はどうなるでしょうか?
--------------------------
教科書などでは、こうした問題の解法に運動量保存則が使われています。
<運動量保存則>
物体系が内力を及ぼしあうだけで外力を受けていないとき,全体の運動量の和は一定に保たれる。
ではまず、運動量保存則を使って実際に解いてみます。
衝突後の速度を\(V\)とすると、運動量保存則より、
\(mv_A\)+\(Mv_B\)=\((m+M)V\)・・・(1)
∴ \(V\)=\(\large\frac{mv_A+Mv_B}{m+M}\)
(1)式の左辺は衝突前のそれぞれの運動量、右辺は衝突後の運動量です。
(衝突後、物体AとBは一体となったので、衝突後の質量の総和は\(m\)+\(M\)です。)
--------------------------
ではこのような問題を、力学的エネルギー保存則を使って解くことはできるでしょうか?
「保存力」と「力学的エネルギー保存則」でも紹介しましたが、力学的エネルギー保存則とは、次のようなものでした
<力学的エネルギー保存則>
●物体に保存力のみがはたらいている場合、その物体の力学的エネルギーは一定である。
●物体に保存力以外の力がはたらいていても、それらの力のする仕事がゼロの場合、その物体の力学的エネルギーは一定である。
試しに、求めたい速度を\(V\)とおいて、式を立ててみます。
今回の運動は水平面上なので、それぞれの物体の位置エネルギーは無いものと考えると、
力学的エネルギー保存則より、
\(\frac{1}{2}mv_A^2\)+\(\frac{1}{2}Mv_B^2\)=\(\frac{1}{2}(m+M)V^2\)
∴ \(V\)=\(\large\sqrt{\frac{mv_A^2+Mv_B^2}{m+M}}\)
黄線部分が、それぞれの法則を使って求めた速度のはずですが、これらは合致していません。
実は今回の例題では、物体の運動は力学的エネルギー保存則が使える条件を満たしてないのです。
運動の状態によって使える法則も変わる
冒頭の例題において運動の状況を見ていきますと、物体AとBは互いに衝突し、一体となっています。
この衝突する瞬間ですが、二つの物体は、下図のように互いに力を及ぼし合っています。
壁を押すと押し返されるように、相手に対して力を与えれば、同時に同じ大きさの力を受けます(作用・反作用の法則)。
ここで今一度、先程の力学的エネルギー保存則の一部を見てみます。
物体に保存力のみがはたらいている場合、その物体の力学的エネルギーは一定である。
法則にある「保存力」ですが、これには重力、弾性力、静電気力などが該当します。
ですが、今回衝突したことで、物体には保存力以外の力(=衝突時に受けた力)もはたらいています。
力学的エネルギーが保存するのは、「物体に保存力のみがはたらいている場合」なので、逆に言えば、物体に保存力以外の力がはたらいている場合は、力学的エネルギーは保存されないのです。
力学的エネルギーが保存されなければ、力学的エネルギー保存則は、残念ながら使うことができません。
なお、「二つの物体が衝突時に力を及ぼしあった」状況は、運動量保存則においては、「物体系が内力を及ぼしあった」部分に該当します。
このため、運動量保存則は成り立ちますが、力学的エネルギー保存則は成り立たないのです。
--------------------------
※例外として、二つの物体が互いに衝突する状況において、力学的エネルギーが保存されるケースもあります。
(こちらでご紹介しています。)